エルダー・スクロールズ・オンライン goldroad

Developer Deep Dive:タムリエルのキャラクターに吹き込まれる声

タムリエルのキャラクターがどのようにして声を得ているのか、ZeniMax Online StudioのVOリーダーであるBecky Ichnoskiによる解説をお届けします!

今回は、エルダー・スクロールズ・オンラインのVO(ボイスオーバー)リーダーであるBecky Ichnoskiに、ESOの多くのキャラクターに声を吹き込む際の準備や録音方法、そして数ヶ月にわたる工程を説明していただきました。英語版のみでも30万を超える台詞があり、そのすべてがBeckyと彼女のチームたちによって企画、記録及び実装されています!


こんにちは、Becky!自己紹介とZOSでの役割について教えてください。

もちろんです。私の名前はBecky Ichnoskiで、エルダー・スクロールズ・オンラインのVOリーダーを務めています。このゲームには2012年から携わっており、Jessica CroweとDB Cooperいった2人のスーパーバイザーとともにVOチームを率いています。


早速本題に入りましょう!ゲームにVOを追加する際の大まかな流れはどういったものでしょうか?

VOは、大きく3つの工程に分けています。

まず、レコーディングに入る前に、基本的にキャスティング、俳優のアサイン、台本の作成、収録のセッションの準備などの事前準備をします。その次の段階としてレコーディングを行いますが、スタジオで収録することもあれば、最近はリモートでやることが多くなりました。実際のVOを録音するのがこの段階です。そして、最後にアフレコを行います。ここでは録音したVOをすべてゲームに反映させ、さらに磨きをかけていきます。


レコーディングの事前準備では何を行っていますか?

そうですね。まずがゲームを実際にプレイしてみて、コンテンツをプレイスルーします。制作途中の段階ですが、クエストの雰囲気を味わい、キャラクターを確認するのが目的です。

また、ライティングチームとともに、主要なキャラクターを演じるのは誰か、特別にキャスティングしてほしい人物はいるなどかを話し合います。そして、各キャラクターに関するイメージ画像や説明、いくつかのセリフが入ったオーディション情報を作成し、各エージェンシーに送るのですが、私たちはさまざまなエージェンシーと仕事をしているため、数日後にはたくさんの応募が返ってきます。

ライターが特定の声優を想定してキャラクターを作成した場合は、本人に直接依頼することもあります。


ライターが特定の俳優を希望した最近の例はありますか?

あります!ハイ・アイルのチャプターのデュレフを演じてくださったPhil LaMarrです。ライターは事前にLaMarrを意識しており、とてもスムーズに作業が進行しました。



Phil LaMarrが声を担当した魔術師ギルドのデュレフ

オーディションの流れを教えてください。

全員を聞いて審査します!順番にお気に入りトップ3を選出して、それを比較し合うことが多いです。また、声優を決定する前に、ライターや他の開発者に声をかけて意見をきくこともあります。

声優を決定するのは、主要なキャラクターからです。私たちはキャラクターを階層に分けており、その一番上には1回のリリースで300行以上の台詞が用意された主要キャラ、その次に100行以上の台詞を持つようなサイドクエストのメインキャラが来ます。彼らも同様に重要です。

全員をオーディションするわけではありませんが、例えばチャプターの場合、10人のキャラクターのオーディションを行い、残りのキャストで他の枠を埋めることもあります。

声優と長く仕事をしていると、誰がその役に相応しいのか、特定のアクセントが得意なのは誰か、またはそれぞれの持ち味といったものが何となくわかってくるんです。また、オーディションで良い結果を残した候補者を、最終的に選ばないこともありますが、将来別の役に適しているかもしれない場合に備えておきます。


なるほど。他の役を演じるために後から呼び戻した声優はいますか?

ネクロムに登場するロスガードの雲雀を演じたBumper Robinsonに初めて会ったのは、他のオーディションでした。ゲーム内で実際に雲雀を確認した時、「この役は彼にぴったりだ」と思ったんです。Bumper以外の声は考えられなかったので、皆さまにお聞かせできるのが待ちきれません。ライター兼デザイナーのJuli Comstockが、彼の脚本を完璧に仕上げてくれました。


オーディションが完了次第、即座にレコーディングを開始しますか?

すぐには始めません!ご存知の通り、ゲームにはたくさんのNPCがいます。商人やモブの敵など、ゲーム内には数えられないほどの役が存在するのです。そこで、エキストラの声優に集まっていただきます。この方たちとても多才で、1回のセッションで最大20種類の声を演じることができます。

チャプター全体になると、総勢50名近くのエキストラが必要になります。50人ほどの声優をキャスティングした後は、それぞれの役を割り当てます。ここで、チャプターに登場するすべてのNPCを、それぞれ誰が演じるのか、50人の声優の中から決めていきます。

声優が決まり、ライティングチームによる執筆が完了したら、一部半自動化されたプロセスである、声優用の台本作りに取り掛かります。各声優のセリフが時系列に並んでいるか、キャラクターが他のキャラクターと会話する場合は、台本に筋道が通っているか確認し、イメージ画像やキャラクターの経歴を添えます。



Nico Garofolo (ボイスディレクター)、 Jessica Crowe (VOスーパーバイザー)、Becky Ichnoski (リードVO)

声優の皆さんには、彼らが演じるキャラクターや世界観の背景をしっかり伝える必要があるということですね。

その通りです。私たち3人は多くの時間を費やして内容を把握し、すべてのシーンを詳細に説明し、声優ができるだけイメージを掴みやすくなるようにしています。少々やり過ぎかもしれません!


The Elder ScrollsまたはESOをプレイしている声優を選ぶことはありますか?

はい。声優の中にプレイヤーがいることは確かです。Kellen Goff、Jonah Scott、Todd Haberkorn、名前を挙げればキリがありません。

Julianne Beuscherは、当初からElder Scrollsの大ファンでした。闇の一党のリリースでブラックドラゴンの声を担当することになり、とても興奮していました、Skyrimでもお気に入りだったそうです!


レコーディングはどのように行われますか?

キャストのリストが完成したら、エージェンシーに交渉してスケジュールの調整を依頼し、膨大なセッションのスケジュールを組んでいきます。例えば、チャプターにつき、2月中旬から3月中旬まで、ほぼ1か月間休むことなく行われます。

レコーディングは、カリフォルニア州バーバンクにあるSalami Studiosで行っています。新型コロナウイルス以来、リモートでのセッションが多くなりました。その場合、声優は自宅のブースからSource-ConnectでSalami Studiosに接続し、他のメンバーとTeams上でつながります。いよいよレコーディングの開始となります。



Jon Abelardo(Salami Studiosのエンジニア)、Christopher Smith(ラズム・ダー担当)、Jessica Crow(VOスーパーバイザー)、Rene Veilleux(ボイスディレクター)、Becky Ichnoski(VOリーダー)


レコーディングのセッションでは、普段どのような指示を出しますか?

まずは、担当するキャラクターについて伝えるところから始めます。ほとんどの場合、ライターが参加し、彼らの声がイメージに沿っているかを確認します。初回でうまくいくこともあれば、調整をお願いすることもあります。

次に、最初の台詞を収録します。伝承に関する単語の発音も確認する必要があります。 テイクAとテイクBをお願いすることもありますが、もし不十分だったり、ディレクターがもっと良い演技を引き出せると感じた場合は、テイクC以上もお願いすることがあります。

そして、ディレクターがプレイヤーや他のNPCのセリフを読んでいるうちに、声優と演技の掛け合いのようなフローが生まれます。


レコーディングの際、発音などを正確に掴むのは難しいものでしょうか?

難しいですよ!10年間もレコーディングを行ってきた私たちの発音ガイドには、9,000以上の単語が収録されています。アップデートが追加されるたび、伝承に関する新しい単語をライターが発音ガイドに追加して、ロアマスターがその単語の発音方法を登録します。次に、セッション中すぐに検索して再生できるように、小さな.wavファイルに細かく保存します。

さらには、原本に登場する伝承の単語をハイライトするツールがあるので、録音中にその単語が出てくるのが事前にわかるので、それをキューに溜めることで流れを止めないようにすることもできます。


声優として、特に楽しかったり、フラストレーションが溜まる特定のグループや種族はありますか?

声優によってさまざまですが、ノルドとアルゴニアンが一番難しいかもしれません。アルゴニアンを演じるのが大好きで、難なく声の雰囲気を掴める人もいれば、苦戦する声優もいます。荒い声質が難しいのか、それとも感情のない雰囲気を声で表現するのが難しいのかもしれません。

アルゴニアンのセッションで、滑らかな紙やすりのようにザラザラとした声を完璧に演じ切る声優についての興味深い話をしますと、これのレコーディングを何時間も行っていると凄く眠くなるんです。声があまりにも心地良いホワイトノイズのようで、まるで催眠かかっているような感覚に陥ります。なんて表現したらいいのかわかりませんが、そのセッションに参加した人はみんな眠くなり、リラックスしてしまいます*。


他にどのような方がレコーディングに参加されるのでしょうか?

全員が混乱して何が起こっているのか分からない場合に備えて、通常はライターもレコーディングに参加してもらいます!場合によっては、タイプミスがあったり、声優が文章をうまく表現できなかったりすると、ライターがその場でセリフを書き直すこともあります。

ほとんどの場合、セッションにはエンジニア、俳優、ディレクター、サポートと発音のために私たちの中から一人のボイスオーバー(VO)女子が一人いて、後ライターがいます。



Brad Derrick(音響監督)、Mark Mercado(Salami Studiosのエンジニア)、Becky Ichnoski(VOリーダー)

レコーディングが終わると、すぐに繋げる作業や磨き上げの段階に移行するのでしょうか?

4週間で一章を収録しているので、すでにレコーディングスタジオからVOが返ってきています。これが一旦終わると、すぐにゲームに組み込めるように、ファイル名で綺麗にカットされた状態にされた山が私たちを待っています。

変更点は必ずあるので、最初にバッチツールで少し調整を行ってから組み込む作業を開始します。


台詞やVOを後から変更することは可能ですか?

そんなこともあります!レコーディング中に不具合が発生することもありますし、場合によってはライターやデザイナーから連絡があり、変更が可能かどうか確認されることもあります。もしその声優とのレコーディングが始まっていない場合は、もちろん、その場でいくつかの変更を加えます。

極端に遅い変更はなるべく避けたいのですが、どうしてもリリースができないようであれば、部分変更のセッションをスケジュールします。


ファイルをフォーマットした後、ゲームに追加するのはあなたのチームですか?

はい、私たちが取り込みを行います。Jessica Croweが担当者です。彼女の管理作業はとても迅速で、私たちのボイスオーバーのデータベースを綺麗に保ってくれます。

ほとんどの場合、台詞の読み替えがたくさんあるので、それを先にやっつけます。スタジオから、一つの台詞に付き複数の解釈が送られてきた際には、その中から実際のリリースで使用するものを選びます。

それから、磨き上げる作業がたくさん残っています!ゲーム内コンテンツをすべて通しでプレイするのはいくつかの理由があります。VOファイルの多くは、VOPPと呼ばれるVOのポストプロダクションが不可欠で、そこはサウンドデザイナーと一緒に作業します。例えば、ファクトタムやデイドラ公は特殊効果を付け足す必要がありますし、また、かなり遠くから聞こえてくるセリフがあるので、それを聞き取りやすくするための工夫が必要です。あるいは、誰かがドアの向こうで何か言っているので、その音をくぐもった声に変換する必要があります。ざっとこういうことをします。

また、VOとテキストの不一致を修正する作業もあります。これは、声優がテキストと少し違う表現をした時に発生する作業です。2人のキャラクターの会話が重ならないように、そして無言の7秒間が発生しないように、VOのタイミングを適切なものへの調整さいます。こういった細かい仕上げ作業がたくさんあります。

これが最初から最後までの大まかな道のりです!


キャラクターに声優が完璧にマッチしたと感じたキャラクターはいますか?

間違いなくいくつかあります。例えば、Matthew Jayson Cwernが声優を務めるソーサ・シルは大好きです。彼はこのキャラクターを演じることをとても楽しんでいて、しかもとても上手なので、そのセッションは本当に楽しいです。彼のためにLeamonが作り上げる脚本は素晴らしいと思います。

Mark Whittenが演じる切断者アロクスも大好きです。私は彼のオーディションでの演技がとても気に入っていたので、彼を推していました。Markはキャラクターをとても激しくも面白い人物演じてくれたため、セッション中に私たち全員を絶えず笑わせてくれました。



Mark Whittenが声を演じた、強大な力を持つ切断者アロクス

今後、また一緒に仕事をしたいと思う声優さんはいますか?

私はシラヴェイン船長がかなり好きでした。彼女は魅力的なキャラクターだと思ったし、Anna Gravesとの仕事はいつも最高です。彼女はとても才能があって一緒に仕事をするのが楽しいですから。

盗賊ギルドのヴェルサも大好きです。Debra Wilsonをまた呼び戻す機会があるのならば、私は飛びつきます!

ファーグレイブに英語をほとんど話さないミクソテトというドレモラ死体学者がいて、Imari Williamsがその声を演じたのですが、脇役だったのですが最高にかわいいと思ったので彼を復活させたいですね。


コンテンツが発売されたとき、プレイヤーの反応は気になりますか?

個人的に、フィードバックに目を通すのが私の楽しみの一つです。 私はいつもフォーラムで皆さまの意見を読んでいます。

このことを知っているプレイヤーの方も多いかと思いますが、フォーラム上で誰かがどのキャラクターの声を担当したかなどの質問があると、私がそこに飛び込んで返答しています。このやり取りをいつも楽しんでいます。

時間を割いてまでESOのボイスオーバーの作業工程に光を当ててくれたBeckyには感謝しています。皆さまのお気に入りのキャラクターで、声が大好きなお気に入りのキャラクター**はいますか?Beckyがそれを担当した開発者の一人かもしれません!

*アルゴニアンのASMRでも作りますかね!

**私のお気に入りはセトです。


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